非水性酸塩基滴定は、石油化学や製薬業界を含むさまざまな業界で広く使用されています。油脂の酸価または塩基価 (AN または BN) を測定する場合、水に溶けない物質を滴定する場合、または異なる酸性度またはアルカリ性度の製品を個別に分別して定量する場合、非水性酸塩基滴定は最適な分析方法です。
すでに非水酸塩基滴定を行った経験をお持ちの方は、水酸塩基滴定と比較して克服すべき課題がいくつかあることを覚えているかもしれません。
このコラムでは、非水酸塩基滴定の際に起こりうる最も典型的な問題をいくつか取り上げ、それらを回避する最善の方法について説明したいと思います。注意すべき重要な点は、非水酸塩基滴定を正しく行う方法に関して唯一の解決策はないということです。正しい手順は、使用する溶媒と滴定溶液に大きく依存します。
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非水酸塩基滴定とは?
非水滴定について説明する前に、まずは水酸塩基滴定について少しお話ししましょう。
ここでは、サンプルを水に溶かし、サンプルの性質(酸性か塩基性 (アルカリ) か)に応じて、滴定溶液として水性の塩基 (アルカリ) または水性の酸を用いて滴定を行います。指示電極にはガラス pH 電極を使用します。
しかし、サンプルの性質から、水性の滴定溶液では滴定ができない場合もあります。非水酸塩基滴定は以下のような場合に使用されます:
- 分析対象物質が水に溶けない。
- サンプルが油脂または油 (オイル) である。
- 酸または塩基の混合物の成分は滴定によって個別に分別定量する必要がある。
このような場合、水の代わりに適当な有機溶媒を用いてサンプルを溶解しますが、溶媒は以下であることが望まれます:
- 溶媒は、サンプルを溶解し、サンプルと反応しないこと
- 溶媒は、混合物中の分析成分の定量を可能にすること
- できれば、溶媒は毒性のないもの
最もよく使用される溶媒には、エタノール、メタノール、イソプロパノール、トルエン、氷酢酸 (高純度酢酸)、またはこれらの混合溶液などがあります。滴定溶液は水ではなく溶媒で調製されます。よく使用される非水塩基性滴定溶液は、水酸化カリウム/イソプロピルアルコール溶媒、または、水酸化ナトリウム/エタノール溶媒であり、また非水酸性滴定溶液では、過塩素酸/氷酢酸溶媒です。
非水溶媒の性質上、通常、非水溶媒は導電性は低く、緩衝性は乏しいです。このため、電極が応答を感知することが難しくなります。そこでメトロームは、非水滴定用に特別に開発されたソルボトロード (Solvotrode)を提供しています。
このpH電極は、標準的なpH電極と比較して、次のような利点があります:
- メンブレンの膜表面積が広く、また膜抵抗が低いことにより、緩衝性の低い溶液でも正確な応答読み取りが可能です
- フレキシブルなグランドジョイントダイアフラムは、油分や粘着性のあるサンプルで汚染された場合でも簡単に洗浄することができます。
- 電極はシールドされているため、静電気による干渉の影響を受けにくい構造となっています。
- エタノール中の塩化リチウムなどの非水電解質と一緒に使用できます。
以下のセクションでは、電位差非水酸塩基滴定を行う際の最も一般的な間違いと、それを避ける方法について説明します。
これは静電気の影響を示しています。しかし、この現象はどこから来るのでしょうか? また、どうすればこれを克服できるのでしょうか?
静電気は、摩擦など多くの原因から発生します。例えば、表面を歩いていると静電気が発生し、体内に蓄積される。カーペットの上を靴下で歩いた後、ドアノブに触れて小さな電気ショックを受けたことがあるでしょう。静電気を帯びた状態で、測定中(使用中)の電極に近づくと、スパイクが発生します(図1)。したがって、測定中に電極に近づかないか、適切に放電されていることを確認することが不可欠です。適切な衣服を着用することで、この問題を回避することができます。非水滴定を行う場合は、ESD(静電気放電)用の衣服と靴を着用することをお勧めします。
ダイヤフラムの詰まり
ダイアフラムの目詰まりも、非水滴定でよく起こる現象です。油性の粘着性のあるサンプルのために、電極のダイアフラムが詰まって開かなくなっているのを見たことがあるかもしれません。その場合、どうすればよいでしょうか?
ほとんどの場合、電極をビーカーの温水の中に一晩入れておくことができます。この処置により、ダイヤフラムが緩むことがよくあります。ダイヤフラムの詰まりを完全に防ぐには、SeasyClean テクノロジーを搭載した ソルボトロード(Solvotrode) を使用する必要があります。この電極では、ヘッドを押すと電解液 (電極内部液)が放出されるため、ダイヤフラムが詰まることはありません。
電解液 (電極内部液)と保存液の選択
非水滴定には2種類の電解液 (電極内部液) を推奨しています。
塩基性(アルカリ性)滴定溶液の場合:0.4 mol/L テトラエチルアンモニウムブロミド (TEABr) /エチレングリコール溶媒
酸性滴定溶液の場合:2 mol/L 塩化リチウム (LiCl) /エタノール溶媒
電極は、必ず充填した電解液 (電極内部液)の中で保管してください。
ASTM D664による電極のチェック
ソルボトロード(Solvotrode) の状態を確認するには、pH 4 および 7 の水性緩衝液を使用して ASTM D664 に従ってテストを実施します。手順は次のとおりです。
- 攪拌しながら緩衝液pH4.0の1分後の電位値を記録します
- 電極を取り外し、純水でよくすすぎます
- 攪拌しながら緩衝液pH7.0の1分後の電位値を記録します
- 緩衝液pH4.0と7.0の電位値の差(mV差)を計算します
- その差が162 mV(20~25℃)より大きい場合、電極は良好な状態であることを示しています
測定された電位差が 162 mV 未満の場合、電極のメンテナンスが必要です。グランドジョイントダイアフラムのフレキシブル スリーブを持ち上げて、電解液 (電極内部液) を少し流出させます。上記の手順に従って測定を繰り返します。電位差の値がまだ 162 mV 未満の場合、電極を洗浄するか、交換することをお勧めいたします。
信頼できる結果を得たい場合、適切なすすぎや洗浄が不可欠です。そうしないと、曲線が平坦になり、終点が認識できなくなります。図 2 はこの現象をよく示しています。
サンプルは同じですが、終点と開始電位がシフトし始め、曲線が平坦になっていることがわかります。これは、測定間の洗浄手順が不適切であることを示しています。その電極を図 3 に示します。
この電極は明らかに適切に洗浄されていません。非水滴定を行う方は、どの溶媒が残留物を最もよく溶解するかを考慮する必要があります。これは、個々のサンプルの性質上、他の分析者が簡単に解決できる問題ではありません。ただし、このような外観の電極を無視しないでください。
pH 測定に関する以前のコラムでも説明しましたが、ガラス膜 (メンブレン) の水和層が損なわれていないことが重要です。非水溶媒はガラス膜をかなり急速に脱水します。水和層の変化は測定された電位に影響を及ぼす可能性があるため、最も再現性の高い結果を得るには滴定を開始する前に水和層が常に同じ状態であることが重要です。
これは、水和層を再構築するためのガラス膜の調整ステップで確立できます。しかし、溶媒が滴定に要する時間よりも早く水和層を除去してしまうときは、ゴースト終点につながる可能性があります。この場合、電極は完全に脱水され、以後の滴定はすべてこの状態で行われることになります。
極性溶媒(エタノール、アセトン、イソプロピルアルコール、トルエンやそれらの混合溶媒など) | 水を含まない溶媒(ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、無水酢酸、またはこれらの混合溶媒など) | |
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電極の準備 | pHメンブレン(ダイアフラムは含まない)だけを純水に一晩浸漬させて水和層を形成させます。 ダイアフラムを持ち上げて、電極内部液を少し流出させます。 |
滴定後に使用する溶媒にpHメンブレン(ダイアフラムは含まない)だけを入れてpHメンブレンを脱水します。 ダイアフラムを持ち上げて、電極内部液を少し流出させます。 |
ガラスメンブレンのコンディショニング | pHメンブレン(半球部のみ)を純水に1分間浸漬させます。 | pHメンブレン(半球部のみ)を対応する溶媒に1分間浸漬させます。 |
洗浄 | 電極を50~70%エタノールですすぎを行ってください。それでも改善されない場合は、適切な溶剤で電極をすすぎを行い、その後50~70%エタノールで洗浄してください。 | 電極を無水酢酸ですすぎを行ってください。それでも改善されない場合は、適切な溶剤を使って電極をすすぎ、その後、無水酢酸で洗浄してください。 |
備考 | 電極の半球部を常に同じ時間、純水に浸漬させておくようにしてください。それがなされない場合、水和層の厚さ が変化することがあり、電極応答に影響する可能性があります。 | 電極が水と接触しないようにしてください。溶媒との反応が誘発され、ゴースト当量点や再現不可能な結果が生じる可能性があります。 |
ビュレットのメンテナンス
非水滴定を行う際に、注意が必要なのは電極だけでなく、ビュレットも同様です。アルカリ性非水滴定溶液は、特に侵食性が強く、結晶化しやすいため、ビュレットの液漏れが起こりやすくなるので、特別なメンテナンスが必要です。
ビュレットは、メーカーの指示に従って定期的にメンテナンスする必要があります。メトロームは以下の手順を推奨しています:
- 滴定の休止時間が短い場合は、シリンダーに滴定溶液を充填しておくことを推奨します。(特に OMNIS の場合は)
- その日の作業の終わりに、純水でビュレットを洗浄します。
- シリンダー・ユニットのセンターリング・チューブとシリンダー・ディスクにグリスを塗布します。
ビュレットの取扱説明書も確認してください。そこにはビュレットの長寿命化につながる最も重要なポイントが記載されています。
代替法としての温度滴定
電位差滴定法による非水滴定に代わる方法として、測定するサンプルによっては、温度滴定法(TET)があります。温度滴定は、非常に感度の高いサーミスタ(温度センサー)を用いて、滴定溶液とサンプル成分の発熱反応または吸熱反応を利用して滴定を行います。
電位差滴定法と比較した 温度滴定法(TET)のメリットは、調整や電極内部液の補充を必要としないメンテナンスフリーの温度センサーを用いることにあります。温度滴定法の詳細については、以下の以前のコラムをご覧ください。
Thermometric titration – the missing piece of the puzzle
Fast determination of acid and base number by thermometric titration
Multiparameter analysis in fertilizers by thermometric titration
まとめ
このコラムが、非水溶液滴定の際に遭遇する主な問題についての情報をご提供できいればと願っています。まず、静電気の影響が排除されていることを確認してください。これにより、トラブルシューティングの時間を大幅に節約することができます。次に、滴定前、滴定中、滴定後に電極を正しく準備してそして手当します。その日の最初の滴定の前には、必ず電極をコンディショニングしてください!
ここで特に重要なのは、使用する予定の溶媒です。極性溶媒の場合は、電極を純水でコンデショニングします。無水酢酸のような非極性溶媒を使用する場合は、まず電極の水和層を脱水する必要があります。測定の間には、電極を適切な溶媒で洗浄し、時々、ダイアフラムを持ち上げて、電極内部液を少し流出させてください。
最後に、ビュレットのお手入れも大切に行ってください。定期的にメンテナンスし、必要な場合はいつでも交換してください。このアドバイスがあれば、非水滴定を簡単に行うことができます!