定期的に滴定を行っている方は、滴定溶液の標定について聞いたことがあると思います。標定を行う際、滴定溶液の濃度を補正するためにファクター、または力価を測定しますが、このファクター、または力価は使用の履歴により、試薬瓶のラベルに記載されている値とは異なっていきます。このコラムでは、なぜ標定が重要なのか、どのようにファクター、または力価を測定するのかについて、貴重な情報をお伝えしたいと思います。
このコラムでは、カールフィッシャー (KF) 滴定溶液の標定については扱いませんのでご注意ください。KF滴定溶液については、以下の記事をお読みください。
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ファクターとは何ですか?
滴定は絶対法(または一次法)です。分析結果が正確で、他の分析者でも再現できるためには、使用する滴定溶液の正確な濃度を知ることが最も重要です。標定を行う必要があるのはそのためです。
通常、公称濃度 the nominal concentration(例:0.1 mol/L)と絶対濃度 the absolute concentration(例:0.0998 mol/L)の違いは、無次元数(例:0.998)で与えられます。絶対濃度は公称濃度にこの係数を乗じて得られ、この係数は通常「ファクター」と呼ばれます。
以下のセクションでは、標定の要点について説明します。
なぜ滴定溶液を標定する必要があるのですか?
正確な測定結果を得るには、正確な滴定溶液の濃度を知ることが重要です。これは特に自家調製の滴定溶液に当てはまりますが、市販の滴定溶液についても滴定溶液は時間の経過とともに劣化するため重要なステップです。
例えば、NaOHやKOHなどのアルカリ性滴定溶液は周囲の空気から二酸化炭素(CO2)を吸収し、ヨウ素を多く含む滴定溶液はヨウ素を放出します。これは滴定溶液の濃度が変化していることを示します。したがって、これらの滴定溶液を標定することで滴定の結果をより確実に正確なものへと導きます。
ファクターの変化を防ぐにはどうしたらよいですか?
これは、分析に使用する滴定溶液の種類により異なります。最も考慮しやすいのは、滴定剤を保管するボトルです。一部の滴定溶液は光に弱いため、褐色または不透明なガラス瓶に保管する必要があります。また、ガラスと反応する滴定溶液もあり、これらはプラスチックボトルに保管するのが最適です。
褐色または不透明のガラス瓶に保管するのが最適な滴定溶液:
- よう素滴定液 (I2)
- 過マンガン酸カリウム滴定液 (KMnO4)
- 硝酸銀滴定溶液 (AgNO3)
プラスチックボトルで保管するのが最適な滴定溶液:
- 水性アルカリ滴定溶液 (e.g., NaOH, KOH)
- 非水アルカリ滴定溶液 (e.g., TBAOH)
もう一つの予防策は、ビュレットの通気部に接続された乾燥管 (tube for absorber) に吸収剤または吸着剤を充填して使用することです。これは、空気中のCO2や水分と反応する滴定溶液には特に重要です。
充填剤には、CO2 を吸収するにはソーダ石灰を、水分を吸収するにはモレキュラーシーブを使用します。滴定溶液がそれらに敏感でない場合でも、ボトルにほこりが入るのを防ぐために乾燥管 (tube for absorber) に綿を詰めることをお勧めします。
CO2吸収用ソーダ石灰を使用する滴定溶液:
- 水性、非水性アルカリ滴定溶液 (e.g., NaOH, KOH, TBAOH)
- チオ硫酸ナトリウム滴定溶液 (Na2S2O3)
溶液水分吸着用モレキュラーシーブを使用する必要がある滴定溶液:
- 過塩素酸-酢酸滴定液 (HClO4) in glacial acetic acid
どのくらいの頻度で滴定溶液の標定を行えばよいですか?
この質問には一般的な数値で答えることはできません。滴定溶液の標定の頻度は、滴定溶液の安定性、1日/週/月あたりの滴定の数、結果に求められる精度など、複数の要因によって異なります。
ただし、滴定溶液のボトルを初めて開けるときは、必ず標定を実施した方がいいでしょう。
以下の表は、滴定溶液の標定の頻度を選択する際のガイドラインです。滴定溶液の安定性に不安がある場合は、得られたファクターデータに基づいて標定頻度を設定できるまで、長期間にわたって頻繁に(例えば毎日)標定を実施してください。得られたデータから、時間経過とともにファクターがどの程度変化するかを知ることができ、適切な標定頻度を選択することができます。新しいソフトウェアでは、ファクターのモニタリングが可能です。これはこの作業中にも役立ちます。
滴定溶液の安定性タイプごとの標定頻度 |
滴定を毎日 | 滴定を2-3回/週 | 滴定を1回/週 | 滴定を1回未満/週 |
---|---|---|---|---|
安定な滴定溶液 (e.g., HCl, EDTA) | 毎週新たな滴定液に交換 | 週ごとに標定 | 週ごとに標定 | 毎回の使用前に標定 |
不安定な滴定溶液 (e.g., NaOH, I2) | 毎週新たな滴定液に交換 | 毎回の使用前に標定 | 毎回の使用前に標定 | 毎回の使用前に標定 |
安定した滴定溶液:
- 水性ー酸滴定溶液 (e.g., HCl, H2SO4)
- EDTA滴定液
- 硝酸銀滴定溶液 (AgNO3)
- チオ硫酸ナトリウム滴定溶液 (Na2S2O3)
- カチオン性/アニオン性界面活性剤滴定溶液
不安定な滴定溶液:
- 水性/非水性-アルカリ滴定溶液 (e.g., NaOH, KOH, TBAOH)
- 非水性-酸滴定溶液 (e.g., HClO4)
- よう素滴定溶液 (I2)
- 過マンガン酸カリウム滴定溶液 (KMnO4)
ファクターの測定方法
ファクター標定は、一次標準物質または既に標準化された滴定溶液を用いて行います。いずれの場合も、液温は滴定溶液の濃度に影響するため、標定は必ずサンプルの滴定と同じ液温で行ってください。滴定溶液は液温が高くなると膨張し、ファクターは低下します。
すべての滴定溶液についてファクター標定を説明することは、このコラムの範囲を超えてしまいます。したがって、ここでは、一次標準物質を使用する場合と、既に標準化された滴定溶液を使用する場合の両方について、ファクター標定の手順を一般的な方法で説明するにとどめます。どの一次標準物質がどの滴定剤に推奨されるかについて詳しくお知りになりたい場合は、対応する以下の技術資料をご覧ください。
一次標準物質を使用する場合は、適当な温度で数時間乾燥させてください。デシケーターで室温になるまで冷却しから、乾燥させた一次標準物質を量り取ります。分取する一次標準物質の重量は滴定溶液の濃度とビュレットの容量によって異なります。ビュレット容量の約 50% で終点となるように一次標準物質を分取することをお勧めします。一次標準物質の分取量が 100 mg 未満の場合は、一次標準物質で標準溶液を調製してその標準溶液を用いてファクター標定を行うことをお勧めします。そうしないと、計量誤差が大きくなりすぎる恐れがあります。
一次標準物質を計量するか、または標準溶液をピペットで滴定ビーカーに入れたら、電極またはセンサーの測定部と基準部が浸る程度の希釈液(溶媒または水)を加えてから滴定を開始します。
一次標準とは何ですか?
一次標準物質は、滴定溶液の標定のために以下のような基準を満たしています。:
- 高い純度と保存安定性
- 低吸湿性(重量の変化を最小限に抑えるために必要)
- 高い分子量(計量誤差を最小限に抑えるため必要)
さらに、国家標準物質などに(例:NISTトレーサブル)にトレーサブルである。
ファクターの計算方法
標定のための滴定が終わりましたら、今度はファクターの計算です。この場合、固体の乾燥した一次標準物質を使用したか、標準溶液/標定済み滴定溶液を使用したかによって、計算式が若干異なります。
固体で乾燥させた一次標準物質の場合は、以下の式を使用します:
mSTD: 一次標準物質の分取量 [ mg ]
p: 一次標準物質の純度 [ % ]
100: 純度の変換係数
MSTD: 一次標準物質のモル分子量 [ g/mol ]
VEP: 終点までの滴定量 [ mL ]
cTitrant: 滴定液の公称濃度 [mol/L]
s: 化学量論係数 [-]
標準溶液/標定された滴定液の場合は、以下の式を使用します:
VSTD: 標準溶液または標定された滴定溶液の分取量 [ mL ]
cSTD: 標準溶液または標定された滴定溶液の絶対濃度 [ mol/L ]
VEP: 終点までの滴定量 [ mL ]
cTitrant: 公称滴定溶液濃度 [ mol/L ]
s: 化学量論係数 [ - ]
最新の滴定装置は、自動的にファクターを計算し、その結果を濃度やサンプル名などの他の関連する滴定データとともに保存することができ、ラボのデータセキュリティをさらに向上させます。
まとめ:
滴定溶液の標定はそれほど難しくありませんが、次の点に留意してください:
- 測定結果の精度を向上させるために、既製の滴定溶液であっても定期的に標定を行ってください。
- 乾燥した一次標準物質または新しく標定された滴定溶液を使用してください。
- サンプルの滴定と同じ液温で標定を行ってください。
滴定を改善する方法について詳しく知りたい場合は、以下の記事をご覧ください。実用的なヒントがいくつか見つかります。