リチウムイオン(Li-ion)電池は、そのエネルギーレベルが比較的高く、電力性能も高いため、最も調査の進んだエネルギー貯蔵デバイスの1つとなっています。充電中、リチウムイオンは電解質を通して+電極から-電極へと移動させられます。放電中、リチウムイオンは逆向きに動き、-電極から+電極へと移動します。電極表面では、バルクへのLi-ionの拡散が起こります。
ここで、Li-ion電池の性能は、電極に存在する活性な物質の拡散係数に最も大きく依存します。したがって、電極材料の化学拡散係数を知ることが、大変重要です。また、電極材料の熱力学特性がわかれば、電気化学的挙動がより詳細にわかります。
定電流間欠滴定法(GITT)は熱力学的パラメータと、拡散係数などの動的パラメータの両方を取得するのに役立つ測定法です。[1,2]
GITTの手順は、電流パルスと、そのあとに続く電流がいっさいセルを通過しない緩和時間の連続で構成されます。電流は充電中+で、放電中は-となります。プラスの電流パルスのときに、セルの電位がiRの低下に比例した値まで急上昇します。ここでRは、補正なしの抵抗値Ruと電荷移動抵抗Rctの合計です。そのあと、電位は、一定の濃度勾配を維持するために、定電流充電パルスによりゆっくりと上昇します。緩和時間中など、電流パルスが中断されると、Li-ionの拡散により電極の組成が均質になる傾向があります。その結果、電位はまず、iRの低下に比例した値まで急降下し、そのあとゆっくりと低下して、電極が再び平衡状態(i.e., when 𝑑𝐸/𝑑𝑡 ≈ 0) に戻り、開回路電位(OCP)に達します。そのあと再び、定電流でパルスをかけ、それから電流を中断します。この一連の充電パルスとそれに続く緩和時間の流れが、電池が100%充電されるまで繰り返されます。
マイナスの電流パルスのときは、逆のことが起こります。セルの電位がiRの低下に比例した値まで急降下します。そのあと電位は、定電流放電パルスによりゆっくりと降下します。緩和時間中、電位はiRの低下に比例した値だけ急上昇し、それからゆっくりと上昇して電極が再び平衡状態(dE/dt = 0のときなど)に戻り、セルのOCPに達します。そのあと定電流パルスがかけられ、それに電流の中断が続きます。この一連の放電パルスとそれに続く緩和時間の流れが、電池が100%放電されるまで繰り返されます。
化学拡散係数は、以下の式により、各ステップで計算されます:[1-3]
ここでi (A)は電流、Vm (cm3/mol)は電極のモル体積、zAは電荷数、F(96485C/mol) はファラデー定数、S (cm2)は電極面積です。また、dE/dδは各滴定ステップδのあとに測定した定常電圧E (V)をプロットして得られる電量滴定曲線の勾配で、dE/d√tは電流パルスの持続時間t (s)中の電位E (V)をプロットして線形化した勾配です。図1は、電位と時間の平方根をプロットした例です。NOVAで提供されている線形回帰ツールを使うと、ΔEtに関する情報が定電流パルスと時間の平方根の勾配から得られます [4]。
十分に小さな電流を短い時間かけると、dE/d√tは直線と見なすことができ、このステップにおける組成のあいだの電量滴定曲線も直線と見なすことができます。この条件下において、式 (1) は以下のように簡略化できます:
ここで(s)は電流パルスの持続時間、nm(mol)はモル数、Vm(cm3/mol)は電極のモル体積、S(cm2)は電極面積、ΔEs(V)は電流パルスによる定常電圧の変化、ΔEt(V)はiRの低下を排除した、電流パルスが一定のときの電圧の変化を表しています。
実験には、Autolab PGSTAT302Nに、Enix Energiesの市販品で、公称電圧3.75 V、公称電力8.25 Whの2.2 AhLi-ion電池を組み合わせて採用しました。
NOVA GITT手順では、10分間ずつ定電流充電パルスをかけ、そのあとにセルを電流がいっさい通過しない緩和時間を10分間設けて、電位をOCPから4.2 Vまで上げています。そのあとGITT放電ステップを実行します。放電ステップでは10分間ずつ放電パルスをかけ、そのあとにセルを電流がいっさい通過しない緩和時間を10分間設けます。電位が十分ゆっくり変化するように、充電の場合も放電の場合も、電流CレートはC/10を選択しました。これはつまり、電流CレートがC/10だと、電池は10時間で完全に充電(または放電)できるということです。調査した電池の場合、C/10のレートで220 mAの電流を充電、-220 mAを放電することになりました。
図2はGITTの電位変化を完全に表したものです。測定はOCP = 3.62Vから始まり、そのあとGITT充電パルスをかけ、さらに緩和時間が続きます。ここでは、パルスをかけたときと緩和時間のあいだに電位降下が見られ、全体で電位は4.2Vまで上昇しています。充電されたあとは、定電流放電パルスにより電位が降下して、そのあと緩和時間があって電位が2.8 Vに達します。
GITTのステップをより明確にするために、図3に最初の2つの充電パルスを示しました。
ここでは、電流が十分に小さく、dE/d およびdE/d が線形になって、式(2) が適用できると仮定します。電位上昇とΔEtの値が計算できることに注目します。そのあと、10分間の緩和時間のステップを設けます。このとき、iRの低下により電位の急降下があることに注目しなければなりません。そのあと、電位はゆっくりと降下していきます。それから緩和時間があって、電位が急上昇します。これもセルのiRの低下によるものです。さらに10分間、定常電位ステップがあります。ここでは、線形の範囲に注目したほうがいいでしょう。iRの低下のあと、緩和時間を最終的に設けます。ΔEtの値も計算で求められます。
市販のLi-ion電池を使用したので、プラスの電極とマイナスの電極によって起こる化学拡散全体への寄与を見極めることはできませんでした。また、式 (1) および (2) によって計算するために必要なモル体積Vmや表面積Sなどの値で欠けているものもあります。
GITTの手順は通常、今回調査で使用した活性な物質を含む電極でできている、電解質を用いた半電池で行われ、この電極が金属リチウムでできたプラスの電極とマイナスの電極になります。できれば、小さな金属リチウム片が擬似参照電極として機能する、三電極の装置が好ましいでしょう。
この方法では、調査で使用した材料の組成と作用電極の表面積がわかっているので、電位変化dEごとの化学拡散係数および/または電量滴定変化d ごとの化学拡散係数が計算できます。文献では、log(D/cm2s-1)対V、または対Vのプロットが一般的です。
本アプリケーションノートでは、AUTOLABとNOVAがLiion電池で行うGITTテストにどのように使えるかを示しました。ここでは、定電流充電パルスをかけ、そのたびに緩和時間を挟んで、電位の上限に到達させています。そのあと放電パルスをかけ、平衡時間を挟んで、電位の下限に到達させました。電位 vs. 時間のプロットから、拡散係数および熱力学パラメータを計算するのに必要な情報が得られます。
参考資料:
定電圧間欠間欠滴定法(PITT)はこちら
- C.J. Wen, B.A. Boukamp and R.A. Huggins, J. Electrochem. Soc. Vol. 126, No. 12, 2258 (1979);
- W. Weppner and R.A. Huggins, J. Electrochem. Soc. Vol. 124, No. 10, 1569, (1977);
- Y. Zhu and C. Wang, J. Phys. Chem. Vol. 114, No. 6, 2830, (2010);
- Z. Shen, L. Cao, C.D. Rahn and C.-Y. Wang, J. Electrochem. Soc. Vol. 160, No. 10, A1842, (2013)