医薬品、化粧品、その他日用品のジェネリック品はブランド品と比べるとかなり低価格になっているものが多い。通常、安いジェネリック品は研究開発が不要であったり、広告コストがかなり抑えられているからで、これはとりわけ一般医薬品の場合にはその品質に反映されてはならない。例えば、発泡性錠剤のかぜ薬Equate(Walmartブランド)はかぜ薬として広く認知されているAlka-Seltzer(Bayerブランド)と同じ主薬成分を同じ割合で含んでいるが、価格はかなり安く売られている。このアプリケーションノートではラマン分光法がこれらの競合する一般市販かぜ薬が同一でないことを確認することが可能で、代表するサンプル群とp値を用いて比較することの有効性を報告する。
このアプリケーションノートでは、ラマンを用いて競合する市販かぜ薬を明確に判別できることを報告する。また確立されたトレーニングセットがサンプル間の微小な差異でも検出できることを示す。
メトロームの携帯型ラマンMira Pは簡単迅速に、非破壊でサンプルの同定試験、確認試験ができるように設計されている。
未知のサンプルの同定試験は、既知のライブラリーのスペクトルと比較して、許容値以内かどうかで判別を行う。 この結果はスペクトルの類似性に基づいている。確認試験は信憑性のある確認されたサンプルを用いてスペクトルの微小な違いを検出して判定を行う。p値テストは多変量解析の一種で同定試験より確認試験に多く使われる。p値テストは代表するトレーニングセットと比較して、測定したサンプルの変異が許容できる範囲かどうかを測定している。今回の場合はこの方法で科学的同一性を先発ブランド錠剤とジェネリック錠剤のスペクトルを比較している。Mira Pに内蔵されたオービタル水平走査(ORST)は高いスペクトル分解能での広範囲な測定を可能にしている。かぜ薬のような不均一混合物の錠剤でも信頼のおける確認試験が可能になる。
トレーニングセット
効果的なp値はトレーニングセットの質(堅牢さ)に依存する。堅牢なトレーニングセットには、そのサンプルの化学組成に無関係の通常の確認試験時の変動が含まれている必要がある。例えば、同じサプライヤーの複数のバッチ、異なるサプライヤーのバッチが必要となる。加えて、外光や温度、サンプルコンテナーの違い、機器の日間変動等もトレーニングセットに盛り込まれている必要がある。
今回は錠剤内の不均一性も考慮するため、それぞれの錠剤を様々な部位を測定した。統計的な目的でそれぞれ20サンプル以上測定を行った。
Mira P(励起波長785nm)の短焦点チップ
(SWD)を用いて、2段階の積算時間、自動積算でそれぞれ20スペクトルづつ、計60スペクトルづつ測定した。測定されたスペクトルは専用のMiraCalソフトウェアで解析し、トレーニングセット用の測定は下記の同じ操作手順(Operating Procedure)を用いた︓
レーザーパワー | 5 |
自動積算 | ON |
平均化 | 1 |
測定チップ | Allow All |
信頼区間 | 0.95 |
マッチスコア | 0.85 |
ライブラリ | USP |
Equate発泡性錠剤(EQ)のデータでトレーニングセットと操作手順を作成した。これらはEQ錠剤とAlka-Seltzer錠剤(AS)の同一性を評価するのに用いられる。吸湿性の高い錠剤は包装から出して30分以内に測定するように注意を払った。またスペクトルも錠剤の様々なエリアを測定するようにした。
測定されたp値は全て信頼レベル0.05以上でEQのトレーニングセットの堅牢さが確認された(図1)。
これはトレーニングセット内のサンプルがそのサンプルを代表するもので、それぞれのサンプルが変動の許容レベル内にあることを示している。
p-値 | 結果 |
---|---|
0.146 | PASS |
0.204 | PASS |
0.712 | PASS |
0.648 | PASS |
次にAlka-Seltzer錠(AS)をEQトレーニングセットを用いて確認試験を行ってみた。下記のような興味深い結果が得られた︓
p-value ORS ON | 結果 | p-value ORS OFF | 結果 |
---|---|---|---|
0.013 | FAIL | 0.533 | PASS |
0.008 | FAIL | 0.573 | PASS |
0.008 | FAIL | 0.197 | PASS |
0.180 | PASS | 0.010 | FAIL |
0.020 | FAIL | 0.010 | FAIL |
0.000 | FAIL | 0.056 | PASS |
0.000 | FAIL | 0.131 | PASS |
0.000 | FAIL | 0.082 | PASS |
0.000 | FAIL | 0.007 | FAIL |
表2の左端のカラムのp値が示すように、Mira PはEQ錠とAS錠が化学的には同一でないことを証明した。追加の検討として、ORS機能がONとOFFでのAS錠を測定結果を比較してみた。ORS機能OFFで不均一なサンプルを測定すると、サンプルの表面の限られた成分の情報が多くなり、測定部の組成の変化により、スペクトルも変化することが確認されPassと判定されるものも多かった。一方ORS機能ONで測定するとほとんどの結果がFailでp値も非常に小さかった。もしAPIが異なったり、含量が違う、分布が異なるような場合も正確にFailと判定することが可能と予測できた。
表2の右2つのカラムの結果は図1のスペクトルの比較と合わせて考えると、2つのブランドの錠剤はAPIの含量はほぼ等しいが、APIの分布に大きな差があることが示唆された。またMira PのORS機能もサンプルの確認試験では有効なツールになりえることが分かった。